ミッションを作る

丹波篠山サイクリングワールド

コロナ禍におけるサイクルツーリズムの可能性と今後の展望

丹波篠山市観光交流部観光交流課/自転車工房ハイランダー

2021年3月9日

  • サイクリング
  • 市区町村
  • 丹波篠山市役所観光交流部商工観光課観光戦略係 主事

    佐圓 拓也 さん

  • 自転車工房ハイランダー オーナー

    村上 大輔 さん

  • 丹波篠山観光協会 広報担当

    今井 めぐみ さん

丹波篠山市は、広域で豊富な観光資源の魅力を活かし自転車で観光をするサイクルツーリズムを推進しています。
市は2020年11月にDIIIGを導入し、丹波篠山サイクリングワールドを公開。個人やグループでのサイクリングを楽しんでもらいながら市内の飲食店や観光スポットを周っていただくことを目的としたコースやミッションを実施しました。

ワールドを運営されている佐圓さん、村上さん、今井さんの3名に、DIIIGの導入の経緯やワールド作成・運営について伺いました。

サイクリングで地域の魅力を伝えながら、現地にお金が落ちる仕組みを作りたい

― 丹波篠山市では観光資源を活かしたサイクルツーリズムを推進して、毎年サイクリングイベントを実施されていたそうですが、どのような内容でしょうか?

佐圓さん:丹波篠山は美しい「まちなみ」や豊かな「自然」、またその土地で収穫された「食」が魅力的なまちで、日本の原風景が味わえます。そんな丹波篠山はサイクリングに絶好の土地であることからサイクルツーリズムを推進してきました。昨年までは10~20人規模の初心者、中級者向けのサイクリングツアーを実施していて、それぞれのレベルに合わせて自然や食を楽しめるガイド付きツアーを組んでいました。

― 年に何回くらいですか?

村上さん:秋に2回ですかね。毎年、「丹波篠山味まつり」という秋の味覚を楽しむイベントがあるんです。気候もいい時期なので、それに合わせてサイクリングイベントを実施していました。

― 昨年の新型コロナウイルス感染拡大でイベントの企画にはどんな影響がありましたか?

佐圓さん:屋外といえど人を集めてツアーを行う既存のイベントは実施ができないと考えていました。でも、コロナ禍での通勤や運動不足解消のためサイクリング層が増加していることもあり、なにかしらできないかと思っていました。

― 「DIIIG」を導入したきっかけは?

村上さん:ちょうど他の地域で、何㎞走ってスタンプを集めたら景品がもらえるみたいな「モバイルスタンプラリー」をやっているのを知ったんです。丹波篠山でもやりたいなと思ったんですけど、アプリを作るには莫大なお金と開発期間がかかるので、気軽にできる感じじゃなく…。それで市役所の方に「DIIIG」っていうのがあるよと聞いて興味を持ちました。

― DIIIGを導入することでどんなことを期待しましたか?

佐圓さん:ただスポットを回るだけのスタンプラリーではなく、ミッション(=体験)をクリアしてポイントを獲得できる仕組みがあり、これならサイクリングでも地域の魅力を伝えることができ、かつ、地域にお金が落ちる仕組みができるのではないかと考えました。

観光案内型のサイクリングイベントからアプリを使ったデジタルスタンプラリーへ

― モバイルスタンプラリーを実施するにあたって、最初に取り組んだことは何ですか?

佐圓さん:ターゲットとコースの設定を行いました。

― ターゲットとは具体的にどのあたりなんでしょうか?

佐圓さん初心者というよりは、スポーツ用の自転車を持っていて普段から乗られている方を想定しました。あとエリア的に丹波篠山市は大阪、京都、神戸からちょうどいい距離にあるのでそのあたりにお住まいのサイクリストです。
でも次はもうちょっとカジュアルに自転車を楽しみたい人をターゲットにしてもいいのかなと思っています。サイクリングにちょっと興味ある人、面白そうやからちょっとやってみたいという人の背中を押せるような企画にしたいですね。

― サイクリングコースはどのように設定しましたか?

村上さん:まずミッションのチェックイン場所を考えました。丹波篠山市は盆地なので、上手く 考えないと登り坂がたくさんになってしまうので、自転車で走りやすく交通量が少ない道を3コース考えました。

― これまでツアーガイドされていた時のコースの組み方とは異なりましたか?

村上さん:基本は同じですね。
サイクリングコースの難易度は、初級、中級、上級と振り分けて考えました。 目安としたのが獲得標高(どれだけ坂道を登ったか)です。 10kmで100mというのが一般的に指標とされている数字で、初級コースの場合は優しく、また中級コースでは程よく、上級コースではとんでもなくきつい(でも走れなくはないライン)で設定にしています。 自身がレーサーだった経緯もあり、走る人の気持ちがわかるので実際に走っていて景観がよい、交通量が少なく安全、など様々な要素を考えコース設定を行っています。

― 今回「グルメライド」というサイクリングコース周辺のグルメスポットもミッションとして挙がっていましたが、お店はどのように集めましたか?

今井さん:村上さんが作ったサイクリングコースをもとに、そのコース沿いの飲食店をピックアップしました。荷物になりにくいように、お腹いっぱいになりすぎないように、比較的購入しやすい価格帯などを考慮しながら選びました。たとえば丹波篠山だとボタン鍋が有名なんですけど、サイクリングの途中でぼたん鍋を食べたらゆっくりしちゃうので、そうじゃないお店でなおかつ丹波篠山らしさを感じてもらいたいな、と。お店には、サイクルスタンドと空気入れを市から提供してもらい、設置しました。

― お店の選定は観光協会さんがもっているデータベースのようなものからでしょうか?

今井さん:観光協会に加入しているお店からですね。でも観光協会としておすすめしたいお店を優先すると、サイクリストにとって立ち寄りにくい場合もあるので、先にコースを設定してもらってその付近からおすすめのお店をピックアップしました。まだまだおすすめしたいお店はあります。

― 報酬はどのような視点できめましたか?

佐圓さん:単なるサイクリングでは地域にお金が落ちないイメージがあったので、グルメライドの獲得ポイントを高めに設定をしました。また、チェックイン+食事または商品購入写真の投稿をポイント獲得の条件にしたので、お店側に少しでもお金が落ちるように工夫しました。

今井さん:「丹波篠山詰め合わせ」は、村上さんと丹波篠山の特産品が集まるお店に実際に足を運んで選びました。「東の魚沼、西の丹波篠山」と呼ばれる自慢のコシヒカリを召し上がっていただきたいということを基準に、お米と、ご飯がすすむものを詰め合わせました。

村上さん:やっぱりパッケージとかも大切ですよね。届いた時にパッケージがイマイチだと「あ~…」ってなるじゃないですか。だから実際に現物を見に行って決めたいなと思いました。

ユーザー分析からサイクリングと観光はつながっていると実感

― 従来のイベント企画と異なることが多々あったと思いますが、やってみて苦労されたことはありましたか?

佐圓さん:やはり初めて実施することだったので、アプリの使い方等の説明は難しかったです。でも、試走でアプリを使いながら実際にサイクリングできたので、やってみることで気づくこともありました。
あと、PRの部分でもう少し工夫や予算をかければよかったかなと思っています。

今井さん:“モバイルスタンプラリー”という言葉が浸透していなくて、紙のスタンプラリーだと勘違いされることが多かったです。 あと「ミッション」とか「DIIIG」っていう名前も初めて聞く人が多かったので「何それ?」と(笑) もっと説明を丁寧にしないとなと思いました。

村上さん:観光案内所には今回のサイクリングワールドを知らずに丹波篠山にやってくるサイクリストたちがいらっしゃります。そういう人たちはある程度コースを決まっているので、その場ですぐに参加はしていただけませんでした。でも長く続けていくことでそういった人たちにも興味を持ってもらえるのかな、と。

― ユーザー分析の結果を見てどうでしたか?

佐圓さん:グルメライドに参加されている方が多数おられて、企画した甲斐がありました。もう少しユーザーが増えて、もっと波及していけばよいかなと思いました。

村上さん:公共交通機関を使って自転車を運ぶ輪行で来られていた方が見られなかったのですが、実のところJR大阪駅から乗り換えなしで約1時間で丹波篠山へ来られます。今後イベントを継続していくなら、JRと上手く連携して電車を使ってより手軽に丹波篠山へ来ていただけることをPRしたいなと思いました。

今井さん:「サイクリストは観光にお金を落とさない」というイメージでしたが、グルメライドの写真が多く集まったのでびっくりしました。サイクリングと観光はつながっているんだなと実感できました。

佐圓さん:あの写真が見える感じよかったですよね。

コースの周辺にあるグルメスポットでは参加率も高く、約3割の人が別日にも訪れ参加されていた

― 今回このメンバーで一緒にミッションを作った感触はどうでしたか?

佐圓さん:サイクリングのプロの村上さん、観光のプロである今井さんと一緒に企画でき、改良の余地はありますが、よい企画になったのではないかと思っています。

― 村上さんは今回の企画に参加してみていかがでしたか?

村上さん:丹波篠山の知られていないスポットを巡れたというお声をたくさんいただきました。 丹波篠山は隠れた名所が多いので、イベントを通じて少しでも知っていただけたので あれば幸いです。

― 観光協会として良かった点はありますか?

今井さん:今回は秋の開催でしたが秋の丹波篠山はかなり多くの観光客が一部地域に集まり、密になりやすいです。しかしサイクリングワールドでは、自転車での広域な観光となったので、一部地域への集中を避けた新しい観光に繋がったように感じます。

― 丹波篠山市が目指す観光や商業の形に対して、今回のサイクリングワールドがどういった役割を果たしましたか?

佐圓さん:丹波篠山の自然や風景を楽しめるサイクリングと、黒豆や栗などの特産品が楽しめる「食」。それらを掛け合わせて、丹波篠山らしいイベントになったのではないかと思います。また、コロナで一度に集客するイベントができない中、こういった新しい形のイベントが実施できたことは今後につながると思っています。

村上さん:丹波篠山はバス、自家用車、徒歩での観光が多く、断片的な丹波篠山を見ることしかできないのですが、今回はサイクリングを通じてより広範囲で、普段は見れない丹波篠山を体験いただけたのではないかと思います。

今井さん:個人のサイクリストであれば、SNSなどの情報で立ち寄りスポットを調べて行かれると思いますが、ネットには掲載されてない、地元で愛されているお店が、丹波篠山にはたくさんあります。サイクリングワールドを通して、そういったお店を市外の方にPRできたのは今回の企画ならではだと感じています。

丹波篠山サイクリングワールドの今後の展望

― 直近で新しい企画はありますか?

佐圓さん:6月から新しいイベントがスタートします。これからの時期におすすめの4つのサイクリングコースと、グルメスポットや休憩場所など、コース周辺のスポット20か所がミッションとして登場します。夏の丹波篠山を楽しんでもらいたいですね。

村上さん:自転車活用推進法という制度ができ、国がサイクルツーリズムを広めようとしているので、上手く連携していけたらといいなと思います。また私のお店でも、ロードバイクのハードルを下げるために、自然豊かな場所で自転車の体験教室のようなものを計画して行く予定です。

今井さん:映画ロケ地の聖地巡礼など、サイクリングと観光資源を組み合わせた丹波篠山らしいコースを提案していきたいですね。

― サイクリングワールドを今後どのように発展させていきたいですか?

佐圓さん:通年で楽しめる仕掛けを作りたいですね。秋が一番賑わう時期ですが、それ以外の季節もたくさん魅力的なものがあるので。サイクリングを通じて一年中丹波篠山を楽しんでいただきたいです。

村上さん:他の市とも協力して、コース設定の範囲を広げたいですね。 最近はあえて砂利道を走るマニアックなサイクリストもいるんで、そういう人向けのアドベンチャー的要素が入ったコースは面白いかなと思います。

今井さん:まだサイクリストに知られていない老舗の名店とかがあるので、普段サイクリストたちがよく使うお店じゃないお店を発信したいですね。たとえば和菓子の名店とか。スポットに入ってることで、「和菓子久しぶりに食べたけど美味しいな」と魅力に気づいてもらえたら。

村上さん:甘いものが好きなサイクリストは多いんで、グルメも2通りに分けてもいいかも。スイーツ巡りコース、ご飯ガッツリコースみたいな。コロナが落ち着いたら宿泊も絡めたいですね。普通にスポットを巡るというより、そういうのも付加価値としていいかなと思います。

― 丹波篠山サイクリングワールドのこれからが楽しみです!ありがとうございました。

佐圓 拓也 さん(右)
丹波篠山市役所観光交流部商工観光課観光戦略係 主事
入庁5年目 観光部局2年目。仕事は観光の実務部隊ではなく、丹波篠山の観光の未来を考える仕事をしています。今は特にターゲットを絞ったインバウンド、国内誘客をメインに仕事をしています。趣味は学生時代から続けているランニングです。日々、丹波篠山路を走っています。

村上 大輔 さん(中)
自転車工房ハイランダー オーナー
20歳で丹波篠山を離れ、大手自転車店に就職。「田舎ならではゆっくりした時間のなかでお客様と関わりたい」という思いから、再び丹波篠山に戻り2014年に自転車工房ハイランダーを立ち上げました。自転車工房を運営しつつ、サイクリングをするのに最適な丹波篠山の景色や道路環境を伝えるべいく、市と協力してイベントの開催やサイクリストを迎える環境整備の取り組みも行っています。ロードレースの選手もしていたので、ロードバイクやスポーツ用の自転車のメンテナンスやカスタマイズが得意です。

今井 めぐみ さん(左)
丹波篠山観光協会 広報担当
大学卒業後、ウエディングプランナーとして西日本を中心に約1000組以上の結婚式に携わりました。出産・子育てを機に丹波篠山へ移住。フリープランナーとして活動後、2020年に丹波篠山観光協会の広報担当として勤務しています。前職で学んだ、営業や企画力、SNSの広告宣伝を生かし、丹波篠山の魅力を発信いきたいと思っております。

丹波篠山サイクリングワールド

丹波篠山市は、広域で豊富な観光資源の魅力を活かし自転車で観光をするサイクルツーリズムを推進しています。昨年度好評だったモバイルスタンプラリーを2021年度も開催。個人やグループでのサイクリングを楽しんでもらいながら、市内の飲食店や観光スポットを周ってお楽しみください。

→ ワールドを見る
← トップに戻る